26th
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差別のお話。
「こういうことは一般論で考えようとすると、迷路に陥ってしまうからね。具体的に考えれば良い。まず抑えておかなければならない点は、奴等が表向き魔法を否定していない、という事だ」「奴等のスローガンは、魔法による社会的差別の撤廃。それ自体は、文句のつけようもなく、正しい」
「では、差別とは何だろう?」「本人の実力や努力が社会的な評価に反映されないこと、でしょうか……?」「さっき言ったはずだよ、深雪。一般論で考えるべきではないと」
「奴等は魔法師とそうでないサラリーマンの所得水準の差を、魔法師が優遇されている根拠としている。奴等の言う差別とは、詰まるところ平均収入の格差だ。だがそれは、あくまで平均で、あくまで結果でしかない。高所得を得ている魔法師が、どれほどの激務に晒されているのか、その点を全く考慮していない。魔法スキルを持ちながら、魔法とは無関係の職しか得られず、平均的なサラリーマンより寧ろ低賃金に甘んじている大勢の予備役魔法師の存在を完全に無視している」「どんなに強力だろうと、社会に必要とされない魔法は、金銭も名誉ももたらさない」「魔法師の平均収入が高いのは、社会に必要とされる希少スキルを有している魔法師がいるからだ。絶対数の少ない魔法師の中に、相対的に高い割合で高所得者がいるから、平均収入が高く算出されるだけなんだ。そして、そういう第一線で活躍している魔法師は、社会に貢献する――いや、この言い方は綺麗過ぎるな。魔法師は、金銭的な、あるいは非金銭的な、いずれにしても何らかの利益を生み出すことによって高い報酬を受けているのであって、ただ魔法師だからという理由で金銭的に優遇されているんじゃない。魔法の素質だけで裕福な暮らしが出来るほど、魔法師の世界は甘くない。俺たちはそれを、良く知っている。」
「魔法による差別に反対するという主張は、結局のところ、魔法師が金銭的に報われることに反対するという主張になっている。魔法師は無私の精神で社会に奉仕しろ、という訳だね」「……随分自分勝手で虫の良い主張に思われます。生活する上で、金銭的な収入が必要なのは、魔法師もそうでない人も同じであるはずです。それなのに、魔法師が魔法で生計を立てることは許さない、魔法を使える者も、魔法以外で生きる糧を稼がなければならない……それは結局、自分たちには魔法が使えないのだから、魔法を人の能力として評価したくないと言っているだけなのではないのですか?魔法師が魔法を研鑽する努力は報われなくても構わない、魔法師の努力は評価されなくても当然だと言っているのですね………それとも、そのような人たちは、生来の才能だけでは魔法は使えないということを知らないのでしょうか? 魔法を使うには長期間の修学と訓練が必要だということを知らされていないのでしょうか?」
「いや、知っているさ。知っていて、言わない。都合の悪いことは言わず、考えず、平等という耳触りの良い理念で他人を騙し、自分を騙しているんだ。それがなぜ魔法科高校の生徒が何故、反魔法活動に荷担するのかの答えだ」
「ええ……それは、魔法否定派の本音が分かっていないからではないと……?」
「魔法を使えない人たちが、自分たちがどんなに努力しても身につけられない魔法で、高い地位を得るのは不公平だと考える。ならば、魔法を使えはするけれども、その才能に劣った生徒が、豊かな才能を持つ生徒に対して、自分がこんなに努力しているのに追いつけないのはおかしい、自分の方が下に見られるのはおかしい……そう考えても不思議はないと思わないか?才能の違いなんて、魔法に限った事じゃない。芸術とかスポーツとかだけでなく、人の営みのあらゆる分野について回るものだ。魔法の才能が無くても、他の才能があるかもしれない。魔法の才能が無いことに耐えられないのなら、他の生き方を見つけるべきだ。魔法を学んでいる者が、魔法による『差別』を否定するのは、魔法から離れられないからに他ならないと俺は思うんだよ。魔法から離れたくはない、でも、一人前に見られないことには耐えられない。同じように努力をしても、追いつけないという事実に耐えられない。何倍もの努力をしても、追いつくことは出来ないかもしれないという可能性に耐えられない。だから、魔法による評価を否定する。才能ある者も努力という対価を払っているんだという事実は、当然知っている。目の前でそれを見ているのだから。それなのに、その事実から目を背け、生来の才能に全ての責任を押しつけて、それを否定する。まあ……そういう弱さは理解できない訳じゃない。俺の中にもそういう気持ちは確かにある」
「そんなことはありません!お兄様には誰にも真似の出来ない才能があるのに、ただ他の人たちと同じ才能が無いというだけで、それこそ何十倍もの努力を積み上げて来られたではありませんか!」
「それは俺に別の才能があったからだよ。不足している現代魔法の才能を、別の才能で埋めた。その術があったから、こうして第三者的な論評をしていられる。もしそうでなかったら……『平等』という美しい理念にすがりついていたかも知れないな。それが嘘だと分かっていても」
「魔法の才能に劣った者は、劣っているという事実から目を背けたくて、平等という理念を唱える。魔法が使えない者は、それもまた人の持つ才能の一種に過ぎないということから目を背けて、嫉妬を理念という衣にくるむ。では全てを分かった上で扇動している奴等の、本当の目的は何か?奴等のいう平等とは、魔法を使えても使えなくても同じに扱えということだ。魔法による社会的差別の撤廃とは、魔法という技能を評価しないということだ。それは結局、魔法の社会的意義を否定するということだ。魔法を評価しない社会で、魔法が進歩するはずはない。魔法による差別反対を叫び、魔法師とそれ以外の者の平等を叫ぶ奴等の背後には、この国を、魔法が廃れた国にしたい勢力が隠れている。良くも悪くも、魔法は力だ。財力も力、技術力も力、軍事力も力。魔法は戦艦や戦闘機と同じ種類の力にもなる」
「魔法否定派は、この国で魔法を廃れさせることを目的にしており、その結果としてこの国の力を損なうことを目的にしているということですか?」
「多分ね。それ故に、テロという非道も辞さない。では、この国の力が損なわれて、利益を得るのは誰だ?」「そういうことだ。だから、気をつけるんだよ、深雪。巻き込まれないように。祭り上げられないように」